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2007年1月 8日 (月)

感想文

ということで、「ロープ」の続きではありますが。

ものごっつく個人的文章になってしまいましたので、日記カテゴリーに入れてみました。
あぎがこのような場合、どんな文章を書き散らかすかを知っている方向けでございます。

 

野田地図の芝居を見る時、いつも考えさせられる事がある。
最後の最後の、本当に最後には、もう祈るしか無い瞬間があるのだということ。

人事を尽くして天命を待つというが、文字通り人事を尽くすとは並大抵のことではない。芝居のようにいつ幕が上がるのかが決まっているものに対処する場合ですら、その期限までに必要なことの全部が完遂されて準備が整っているのなどということは、少なくとも私は実現出来たことが無い。いつだって何かが足らないし、いつだって忘れていたことを思い出す。ここをこうしたらもう少し、なんてことを考え始めている。
何度もそんな至らなさを繰り返して、他人様に段取りを指導する立場になってからいい加減長いけれども、それでも全部が揃う瞬間なんて夢のまた夢でしかないような気がする。

それでも、幕は上がるし、そして芝居は進んでゆく。その容赦ない臨場感に、野田地図の芝居はいつも私を巻き込んでしまう気がするのだ。そうして、そこから、その舞台の上に展開していく物語から、逃れることが出来ない。
舞台の物語の中で、色んな人物が色んなことを考えて、感じて、行動して。それを表現する弾丸のような言葉と動き、その全部がひとつの流れとなって私という観客をも濁流に飲み込んでいるということかもしれない。

芝居は抗いようもなく流れてゆき、やがて祈りの瞬間へとたどり着く。演劇というのは通常再現性のあるものの筈なんだけれども。野田地図の芝居を見ていると、そこへと行き着いてしまうことの必然とか、運命とか、どうしようもなさが、芝居であるのと同時にまるで現実であるかのように容赦なく突きつけられている気がする。それはきっと、野田秀樹という人物がそういう風に世界と向き合っているということの投影なのではないかと思うんですが、その場所へと連れて行かれてしまったその時には。

もう、本当に祈るしかない。他には何ひとつ出来ることがない。自分がかつてその立場に立たされた瞬間をまざまざと思い出す。ああ、またここへ来てしまった、そんな感じ。
ここへ来ないために色んな選択肢があった筈なのに。でも全ての努力にはそれに相応しい時というものがあって、その瞬間に為すべき何かを実行出来なかったら、後からどう足掻こうとも、もう遅い。起こってしまったことを無かったことには出来ない。また私はそれを正しく選び取ることが出来なくて、流れを変えることが出来なくて、ちからが、努力が、思考が、その他の何かが、もしくは何もかもが足らなかった、そんな無力感を、もう一度思い出す。

いや、冷静に考えれば観客が舞台の外から物語に干渉することなんて不可能な訳で、その意味では最初っからその物語に対して、私は無力なんだけれども。個人的には私は結構冷たい人間らしく、舞台上の物語にシンクロしてしまうということはないのですが、野田地図は別格ですね。そのあまりにも容赦のない、つまり現実的であることに捕まってしまうということなんじゃないかと、思うんですが。

その巨大なリアルさに圧倒されて、もうどうしようもない、そう思った時。どうか、そんな風に祈っている自分に始めて気が付くのです。もうそれしか出来ないしね。

ロープに囲まれた虚構というリングの下に押し潰されて、ひっそりと息づいている者達が、それでも、そこに居て欲しい、そう祈っている。現実がどうしようもなく悲惨である、その真実が暴かれてしまった後であっても、せめてそれを、無かったことにしてはならないと思う。引き裂かれた母親の腹から生まれ出でたびしょびしょのものを、受け取ってしまうのは私でもあるのだと思う。その苦しみと哀しみを、せめて抱き止めることが出来るものでありたいと思う。そうであることの出来る強さを持ちたいと思う。それが起こることを回避することは、また出来なかったけれども。
自分が生まれるより前から延々と繰り返されてきた戦いの、自分が生きている、例えば今この時も何処かで繰り広げられている戦いの、そのどうしようもなさを、せめて、無かったことにしない強さ。確かに目前のあの舞台の上に存在している何かから、目を背けない強さ、忘れない強さが、どうか私にありますように。
だからあの芝居において、最後にリングの下からトレーが押し出されてきた、その事はとても嬉しくて、少し哀しかった。同じように戦い続けなければならないものが、まだあそこにいるのだということだから。
今回、そんなことを考えながら帰って参りましたが。

帰ってきた此処こそが。まだすることの出来る何かが私に残されている、己の戦場であるということなのかもしれない。

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